特定外来生物被害防止法に関する個人意見

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カムルチーとタイワンドジョウが「選定作業が必要な魚種」としてリストアップされた「理由」「被害の実態」「被害をもたらしている要因」そして「主な参考文献」は上記である。
  これら2種を「本当に知っている人」が読むと、「!?!?」となる箇 所もあったと思う。

 ではこのあたりから、私の実体験としての日本のカムルチーとタイワンドジョウが「特定外来生物被害防止法」の選定基準に当てはまるかどうかを見ていこう。
  まずは「生態系を著しく破壊するもの、またはその危険があるもの」という項目で考察してみよう。
カムルチーやタイワンドジョウの生息する場所の多くでは、在来種が多 く見られる。「彼らのせい」で在来種であるメダカ(Oryziaslatipes)やモツゴ、タモロコやヤリタナゴやニッポンバラタナゴ、キンブナやギンブナ などが減少した例など、見たことも聞いたこともない。それは両生類にかんしても言えることだ。トノサマガエルやダルマガエル、ヌマガエルやツ チガエルなど、水中や水辺にいることが多いアカガエル科の種にしても、サンショウウオ科の小型種やニホンイモリにしても、カムルチーとタイワンドジョウのせいで激減したものなど存在しないだろう。甲殻類や水生昆虫にかんしても同様だ。
  もちろん、それらの種を食うことはある。しかし、生態系を「著しく破壊する」などありえないことなのだ。「著しく」どころか、「破壊」という言葉に値することすら、彼らにはできないだろう。ただでさえ日本国内 では減少しつつある種なのだ。肉食魚として、生きている他の魚や両生類、爬虫類を食うことを「破壊」と呼ぶ人がいるとするなら、それは奇妙な感 傷に端を発する誤解である。肉食魚は生きるためには、生きている他種を食わなければならない。度を過ぎれば「食害」や「破壊」と呼ぶことも可 能だが、カムルチーやタイワンドジョウにかんしては、それを「破壊」などと呼ぶには、いくら誇張しても不可能であることは、彼らの生息している湖沼や河川の「生態系そのもの」が証明している。古くから彼らが定着した場所では、すでに80年以上にわたり安定を維持している例も多い。
  次に「農作物や漁業に悪影響を及ぼすもの」。肉食魚なので、商品として栽培されているヒシやハス、クワイなどを食うことはありえない。漁業にかんしても、上記の在来種との共生を考慮してもらえば、理解に難くな いはずだ。
  そして「人体や生命に危険を及ぼすもの」。日本国内のカムルチーやタイワンドジョウを生食して、有棘顎口虫に感染した例も、昭和40年代以降見られなくなっている。この話は寄生虫学者として有名な藤田紘一郎教授 が著書『笑うカイチュウ』の中でも触れている。最も濃厚な有棘顎口虫の分布地であった佐賀地方で、この寄生虫を調べた九州大学の教授によると、 100匹近いカムルチーを検索しても、1個体の有棘顎口虫も発見できなかったという。有棘顎口虫の生活環が途切れたことを示唆するものだ。
  仮に感染したとしても、それは淡水魚の生食自体に問題がある。「ライギョ」に限らず、淡水魚の生食には寄生虫症感染の危険があるのだ。代表的なものは肺や肝臓への吸虫類である。アユの生食が行なわれる地域では 横川吸虫の感染例も多いようだ。予防は単純である。淡水魚を食う場合には十分火を通してから、というだけのことだ。「人体や生命に危険」というのは、こういう意味の危険のことではないだろうが、「ああ言えば、こう言う」式のツツキが入った場合の予防線として、念のためこれに記して おく。
  産卵保護床で卵や稚魚を守っている親魚は、侵入者に対して迎撃することもある。自分より侵入者が大きい場合は引き下がることが多いし、当然のことながら「人体や生命に危険を及ぼす」ほどのものではない。


  「お前はライギョが好きだから、そうやって弁護するだけだ」と言う人 もいるかもしれない。たしかに私は「ライギョ」と呼ばれる魚族が好きである。しかし、偏愛はしていない。何故なら私は「ライギョ愛好者」であ る以前に「自然観察者」であり「自然愛好者」であるからだ。この事実は、私と行動をともにしたことがある人なら理解できるはずだ。私は「ライギョおたく」ではなく、池や流入する溝の生物、周囲の水辺林における生態系まで視野に入れて、本来の釣りを忘れかけることもしばしば、であることは、取材に同行した経験のある雑誌記者や、周囲の知人その他が証明してくれるはずだ。また、机上の空論ではなく、屋外での自分の誇張しない見聞を大事にする。その姿勢も彼らが証明してくれるはずだ。   どんな学者(まさかバス擁護派?)がカムルチーとタイワンドジョウを選定に入れたのかは知らないが、これらの種族にかんしては、私のような在野の釣り人兼観察者のほうが、はるかに真実を知っているはずだ。フィールドワークなしでは本来の習性はわからない。しかし、聞くところでは選定委員には釣り人はひとりも入っていない。そして当然、私は「ライギョ」について質問されたことなど一度もない。

 私は「特定外来生物被害防止法」にかんする声が上がるずっと以前から、 カムルチーやタイワンドジョウと在来種との共生を目にしてきたし、それにかんする話をしてきた。カムルチーやタイワンドジョウと在来種との共 存にかんしては、2002年9月30日に発行された日本生態学会編の『外来種ハンドブック』にも、あくまでも証言例としてだが、記載されている。 何でもかんでも、外来種を完全悪に仕立てたがる傾向が強い中、公平な意見が出ているものだな、と当時少しだけほっとしたものだ。
  しかし、この本、カムルチーにかんしては前出の「被害の実態(代表的な事例)生態系に係る被害」の中で「●大型になる上位捕食者で魚類や甲殻類などを補食する。(文献1,2,5,7)」の「文献5」としてしか扱われていない。

 たしかにカムルチーやタイワンドジョウの生息水域でも、在来種が減少した場所はある。しかし、それを食害とするのは、いささか早計である。私が見てきたそのような水域では、水生植物にも影響が出るほどの水質変 化(悪化と言ってもよいレベル)が著しかった。溶存酸素に依存する一般の魚には致命的であろう。しかし、カムルチーやタイワンドジョウは、空気中の酸素を直接呼吸することが可能なのだ。呼吸器官自体が異なるのである。水域を制覇したわけでも独占したわけでもない。その構造の違いに より、何とか「生き延びた」のだ。
  これら2種の「ライギョ」について、その外見的特徴を快く思わない人や、空気中でも他の魚たちより長く生きていられる(あくまでも他魚種よりは長く、という意味。そのまま放置されれば当然生きてはいられない) 呼吸器構造を気味悪がるあまり、実際にはありえない虚偽を述べたてる人もいる。「炎天下に放置しても3日間生きていた。近づいたら噛みつきにきた」「自分の体より大きなコイを食べた」など。前者は論外なのでそれこそ放置しておく。一方後者も絶対にありえない。何故なら彼らは噛みち ぎるための歯や顎を持っていないからである。彼らの歯は、獲物を逃さないためだけに進化したものだ。捕食が下手だから、一度でも口にした獲物 は逃さないように進化した、僅かなカーブを持つ紡錘形の歯である。肉食哺乳類のように前足で獲物を押さえることができない魚族が、肉を噛みちぎるにはメジロザメ目やピラーニャのような形状の歯が必要だ。つまるところ彼らは丸呑みスタイルだから、自分より大きな魚を食うことは、身体構造上できない。カムルチーにおける「被害をもたらしている要因 生物学的要因」には「体長(尾ビレは含まない)の1/3程度の大きなものでも 捕食できる」とあるが、口が体に対してきわめて大きい幼魚期を過ぎると、大きなものを無理して捕食する傾向は、急速に減退していく。
  彼らを「獰猛」「貪食」と表現する向きが未だにあるが、それは事実を知らない人の誇張にすぎない。ある漫画で一躍そのイメージを背負わされた感がある。作者の方には下のように言わせていただきたい。「あなたは それを描いた時点では、あまりに『ライギョ』について無知すぎた」と。


                                                 
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